目からウロコの“究極”の渋滞回避術②この方法に関する実証実験の様子を今年6月に警察庁がDVD化して、ドライバー教育などに使ってくれることになっています。教習所などでも流してもらえるようになれば、徐々に世の中は変わっていくと思います。JAFにも協力してもらっており、「JAF Mate2009年6月号」でも大々的に紹介してもらう予定です。JAFメイトは発行部数1400万部という日本で最大級の媒体ですので、かなり大きな反響があるのではないかと思っています。 ――どういった実証実験ですか? 西成教授:警察庁とJAFの協力の下、「渋滞吸収隊」というものを作りまして、2009年3月15日の午前11時に、相模湖インターチェンジから小仏トンネルまでの間を、警察庁とJAFのステッカーを貼ったクルマ4台で時速70kmで走行しました。“印籠効果”のあるステッカーを貼ってあるので、一般のクルマは我々を追い越すことができません。すると60mまで下がっていた車間距離が80mまで回復し、交通渋滞を起こさずに済んだのです。 ――ほぉ。免許の更新の際にも紹介できるといいですね。 西成教授:ちょうど今、全日本交通安全協会ともそういった話をしているところです。渋滞解消に関しては今のところ特効薬というものはありませんが、1人1人の知識が向上することで徐々に世の中は変わっていくと信じています。 小仏トンネルは以前、渋滞個所の道幅を広げることで渋滞解消を試みましたが、道幅を広げた分だけ、交通量が増えてしまい、結局、渋滞は解消されませんでした。 しかし、知識の向上であればコストはほとんどかかりません。インフラ整備や政策よりも効果があり、しかもコストがかからないということで、私はその部分を全面的にバックアップしていきたいと思っているのです。 渋滞が解消されていく速さは時速-20km 西成教授:「ちょっと知るだけで、渋滞が解消される」ということはたくさんあります。例えば、NEXCOが「現在、長さ何kmの渋滞がこの場所にある」といった情報を発信していますが、その情報をリアルタイムに入手できれば、高速道路の各地点において、時速何kmで走れば良いかを計算によって割り出すことができます。 高速道路において渋滞が解消されていく速さは、平均的に見て時速約マイナス20kmだということが分かっています。つまり、時速マイナス 20kmで渋滞は小さくなっていくということです。ですから、渋滞領域へ到達するクルマの台数がゼロ台であれば、1kmの長さの渋滞は3分でなくなる計算になります。渋滞領域に到達するクルマの台数と、渋滞から抜け出すクルマの台数を計算して、今の自分の位置から時速何kmで走れば、現在渋滞が発生している領域に、ちょうど渋滞が解消された頃に到達できるかを算出することができるというわけです。言い換えれば、何分後に現在の渋滞領域に着くようにすればよいかということです。現在、そういったシステムの導入を提案しています。 そういったシステムができれば、渋滞の起こっている場所の後ろの方のある場所で、例えば「この地点では制限時速を75kmにしなさい」と警告することができます。しかもその警告を守った方がノンストップで渋滞領域に到達でき、しかもその頃には渋滞は解消されているわけですから、警告を守らないクルマより得をすることになります。こういった計算を運転中にその都度行うのは非常に難しいので、システムとして提供できれば良いなと思っているんです。 ――ぜひ、作っていただき社会に普及させていただきたいですね。 西成教授:例えば小仏の場合、渋滞の長さが2kmくらいであれば、相模湖インターチェンジから時速70kmで走行していけば、渋滞に巻き込まれることなくノンストップで小仏トンネルを通過できます。でも、時速100kmのまま行ってしまうと、小仏トンネルあたりで時速10kmに下がってしまいます。「どちらが良いですか?」と言う話です。 ちょっと我慢するだけで、全くブレーキを踏まずに、そのまま行くことができるのです。そういったシステムを提供するためのコストは、計算するためのソフトウエアくらいのもので、インフラ整備に対するコストはほとんどかかりません。しかも計算と言っても簡単な計算です。こういった渋滞状況に応じて可変的に速度制限を行うことを、「VLS」すなわち「バリアブル・スピード・リミッター」と呼んでいて、海外では一部、導入しているところもありますが、我々の研究によってより精度が向上してきています。ポイントは「速さ÷車間距離」を一定に保つこと 西成教授:しかしながら、例えば、時速100kmで走行していたクルマの速度を70kmに制限することで、逆に後ろに渋滞を作ってしまう場合もあります。私はそれに対してももちろん対策を考えていています。 簡単に言うと「速さ÷車間距離」を一定に保つことです。例えば、時速100km、車間距離60mで走っているクルマの時速を70kmに制限した場合、車間距離を42mにするのです。100÷60=70÷42=1.666…というわけです。そうすると、自分のクルマの減速波によって、後ろに渋滞が発生しないということが、ある計算式から導き出されています。この値約1.67を常に一定に保つように運転できる人は非常に優秀なドライバーになれます(笑)。 しかしながら、普通はなかなかできるものではありません。そこで、この値をリアルタイムにカーナビに表示するといったことができるようにしたいと思っています。そのため、現在、カーナビメーカーへの提案なども行っているところです。 キーワードは「スローイン&ファーストアウト」 ――ITS(高度道路交通システム)に取り入れるといった計画はないのでしょうか? 西成教授:まだやっていませんね。私としては、ITSのように、何兆円といった巨額の予算をかけてシステムを構築するよりも、「ドライバーの知識が向上するだけで、こんなに世の中が変わる」といった、もっと人間的なことをやりたいんです。こういったスタンスで、社会に貢献したいと思っています。できれば、予算はほぼゼロでやりたいですね。 例えば「坂道の渋滞をどうやって防ぐか」といった場合、「ここは坂道ですよ」と看板を立てるだけでも効果があります。しかしながら、何の知識もなければこういった看板が立てられていても、「だから何?」となるでしょう。ですから、知識は非常に重要なんですよ。予算の節約にもなります。元来、教育とはそういうものであり、それが一番大事なことなのではないかと思っているのです。私は人間が大好きなので、人間中心に考えたいんです。「コンピュータを使って自動化する」といった世界はあまり好きではありません。 ――「速さ÷車間距離」の値をリアルタイムに計算するには、車間距離を知る必要がありますよね。 西成教授:車間距離はレーザービームを使って計測する必要があります。既に車間距離をセンシングできるクルマは市販されていますが、もちろんすべてのクルマがそれをできるわけではありません。ですから、今、誰でもできることとしては、「スローイン&ファーストアウト」がキーになると思います。つまり、渋滞領域にはゆっくりと近づき、渋滞領域に入った場合はできる限り早く抜けるということです。これによって、渋滞という怪物から逃れることができます。 ――それでもピタっと止まってしまったら、車間のとりようもない……。 西成教授:大概、みなさんは渋滞にはまってしまうと諦めてしまい、前のクルマが動き始めていても、「もういいや」という態度を取ってしまいがちです。でも、そういった態度では、渋滞は成長する一方です。渋滞は早く抜け出すことで、成長を弱め、渋滞の先頭の解消を早めることができるのです。 そのためには、2、3台前のクルマが動き始めたら、自分もある程度、見切り発車して動き始めることです。2、3台前のクルマを見ながら運転することで、反応時間がものすごく速くなり、渋滞の先頭が解ける速さも増します。こういった知識を持っているだけで、渋滞の距離を縮めることができるんです。 ――西成先生が提唱されている運転方法は渋滞の回避と解消を同時に行うことができるものなのですね。 西成教授:2008年8月16日に小仏トンネル付近で実証実験を行ってみたところ、3、4台のクルマが連携するだけで渋滞が発生しないことも分かりました。ところが、実験中に私の前にクルマが2台割り込んでしまったのです。それによって、あっと言う間に渋滞ができてしまいました。もしそれがなければ、2008年8月16日の午前11時からの渋滞は発生していなかったはずです。その証拠となるデータも持っているので、そのうち公開する予定です。 少なくとも1km以下の渋滞であれば、3、4台が連携することで、間違いなく渋滞の発生を抑えることができますよ。ですから、友達同士など数台のクルマを連ねて旅行に行かれる場合などは、“渋滞吸収隊”を作っていただき、ぜひ渋滞を取り去っていただきたいですね。渋滞情報は1kmから出ますので、相模湖インターチェンジで小仏トンネル付近に関する渋滞情報が出ていれば、もうガッツポーズですよ(笑)。 渋滞領域の手前5km辺りから、時速70kmでゆっくり走ることで、渋滞は大分解消されます。早く行こうとすることが、逆に渋滞を成長させてしまうのです。「いかに渋滞を弱めるか」ということを考えていただければと思います。スローイン&ファーストアウトによって、渋滞の長さはどんどん短くなっていきます。 例えば、首都高速は時間帯によって料金が変わりますよね。夜中の12時になると、通常700円が400円になったりします。そうすると、夜中の 12時の少し前になると、首都高に入るクルマは12時を過ぎ、料金が安くなるのを待つためゆっくり走り始めます。まさにそれです!これを皆でやれば渋滞はなくなります。私はこの現象を発見した時、「皆、できるじゃないか。ぜひ、小仏トンネルでもこれをやってくれ!」と思いましたね。 ――では、渋滞の発生に合わせて通行料金を変えるというのはいかがでしょう? 西成教授:「現在、渋滞が発生しましたので、相模湖インターチェンジから小仏トンネルまでの区間の料金が3000円になりました」とか、ね(笑)。とはいえ、私はやはりお金で人間の行動をコントロールするよりも、皆さんの知識の向上に努めたいですね。 ――ところで、ブレーキを踏まないことはエコドライブにもつながりますよね。 西成教授:おっしゃる通りです。エコドライブの基本はできる限りブレーキを踏まないことです。ブレーキを踏むということは、すなわち「スピードを出し過ぎた」ということです。ブレーキを踏まずに最後まで行けることが理想です。 よく都市交通で、前方に見える信号機が赤だと、緑に変わるのを見計らいながら、少しずつゆっくり近づくということがあると思いますが、渋滞への近づき方はその感覚と全く同じです。「赤から青になるのを待って、信号機にゆっくり近づく」という行為を、高速道路では、少し大きなスケールでやっていると思えば良いのです。目の前に渋滞があればゆっくりと近づくこと。そのうちに渋滞は解けてくれので、自分は渋滞に巻き込まれることなくノンストップで走ることができます。――では、一旦渋滞にはまってしまった場合、最適な車間距離というのはあるのでしょうか? 西成教授:高速道路での渋滞の場合、時速20kmが平均的な値です。ですので、車間距離は中心間距離で15mが良いでしょう。15mと言うと2、3台入れる距離ですが、15m以下に詰めてしまうと危険です。 そしてその際も、割り込まれても決して焦らず、じっと耐えることが重要です。「燃費が悪いな、かわいそうだな」と思っておけばいいのです。「そのうち、世の中は変わる」と信じること。信じるには勇気が必要ですが、勇気は大切です。知識は勇気につながります。そのためには、私を信じていただくことです(笑)。 ――ドライバーの何%がそうした知識を持っていれば大丈夫ですか? 西成教授:長さが3km以下の渋滞であれば、10人中1人が知っていれば大丈夫です。それによって、渋滞が分断化され、ほどけやすくなります。渋滞は大きなかたまりになってしまうと解くのが難しくなってしまいますが、渋滞に空間が持ち込まれ、分断化されることで、渋滞は弱まるのです。 ――10人に1人という割合はどうやって算出されたのでしょうか。 西成教授:コンピュータシミュレーションによって算出しました。渋滞の波がいきなり弱まり、後ろの渋滞の成長率が大幅に低下することが明らかになったのです。――そういえば、クルマ1台1台にIPアドレスなどを割り振るという話もありますが、そうした管理によって渋滞をコントロールするというのはいかがですか。 西成教授:いきなり、カーナビのモニター画面に「あなたのクルマは、直ちに隣の車線を走りなさい」なんて出たらイヤじゃないですか。今、どこで何をやっているかがすべて分かってしまうようなITによる管理社会は避けたいですね。繰り返しになりますが、もっと生き生きと人間らしい生活が送れる社会にしたいです。 例えば、天気予報のように、高速道路の電光掲示板に「渋滞確率80%」といった具合に出すのも面白いのではないかと思います。現在は渋滞情報を出していますが、渋滞を予測して渋滞警報を出すのです。それを見たドライバーが速度を落として車間距離を空けてくれることで、渋滞確率が下がれば、ドライバーもうれしいと思うんですよ。電光掲示板に「皆さんのお陰で渋滞確率が減りました!グッジョブ!」みたいな感じで表示してほめてあげれば、ゆっくり走ることで損した気持ちになるどころか、「社会に貢献したぞ!」という気持ちになってますますやる気が起きるでしょう。 ――現在、エコドライブをするとエコマークが点灯するクルマがありますが、あれは中々良いアイデアだと思いました。人間というのは面白いもので、エコマークを光らせたいと思ったりするんですよね。ところで、事故渋滞に対しては良い方法はないのでしょうか。 西成教授:いったん、事故が起こってしまうと難しいですが、高速道路で起こる事故の約2割は渋滞に気付かず前のクルマに追突するケースです。ですので、車間距離を空けてゆっくり近づくことで、渋滞の原因となる事故自体が減ります。渋滞は色々な要因がからみ合って起こっていますから、1つを解決することで色々な波及効果が出てくるのです。 未来の情報を提供することで渋滞は緩和される ――西成先生は著書の中で、全員が知らない方が良い情報として、「カーナビのジレンマ」の話をされていたかと思いますが、この件に関してはいかがでしょう。 西成教授:裏道情報のお話ですね。カーナビに、「現在、この裏道が空いていますよ」といった情報を出してしまうと、皆がそっちに集中してしまうので、今度はその道が渋滞してしまうという話です。こうした裏道や渋滞回避ルートといった情報の場合、全体の3割以上が知ると意味がなくなります。できるだけ全員が知っていた方が良い情報と、全員に伝えてはいけない情報があるのです。裏道情報の場合、伝える人の割合を全体の3割に制限するというのがポイントです。 現在のカーナビの渋滞回避情報は、リアルタイム情報だと言っていますが、実は5分間遅れて提供されるので、5分前の情報なのです。特に朝は道路状況があっと言う間に変わりますから、5分前の情報を提供されてもあまり意味がない場合も多いのではないでしょうか。 ここに1つ、面白い研究結果が出ています。本邦初公開。今日は特別にお教えしましょう。 それは、10分~15分後の交通状況に関する情報を伝えることです。カーナビに、例えば「15分後、この道がこの程度混みます」といった情報を出すと、「じゃあ、こっちの道を通るか」という風に迂回するドライバーが出てきます。それによって、各クルマがうまく分散し、渋滞が軽減されるのです。コンピュータシミュレーションを行ったところ、経路が数通りあれば、均等に選択されるという結果が出ました。 一方、リアルタイムの交通状況を発信してしまうと、今、空いている道だけに人が集中してしまい、かえって悲惨なことになるのです。つまり、未来の情報を提供する方が選択肢が広がり、人は分散するということです。最近、海外の研究者が論文の中で同じような内容を発表しているのを目にしました。 “15分後”という未来の情報は、今の交通量を基に加速度計算することで簡単に求めることができます。今後、コンピュータシミュレーションの精度を高めていけば、30分後、1時間後の道路の状況をより正確に提供できるようになるはずです。それによって交通全体の流れが良い方向に向かうのではないかと思っています。 ――どうもありがとうございました。これで、GWの渋滞対策は完ぺきです。 |
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